思考実験室

日々のつれづれ

Hauptharmonie『Herz über Kopf』を聴いて

言わずと知れた通り、Hauoptharmonieは高い楽曲性、音楽性はアイドルファンのみならず早耳な音楽ファンにも一定の評価を受けている。1stフルアルバム『Hauptharmonie』はUKロック、スカ、ジャズを主軸にしつつ、渋谷系サウンドも取り入れた楽曲もある、射程の広い一枚となっている。リードトラックとなっているギターポップな「映ゆ」から始まり、「(the garden was alive with) all sorts of flowers」と"耳障りの良い曲"が続いた後に「Tempting 10 Attempts of Temperance」のようなスカした曲、「ナイトプロポーズ」のようなしっとりとした聞かせる曲といった編成からはじまっていく。先に4曲を挙げたが、全16曲(truck1はintroなので実質15曲)あり、捨て曲が一切なく『名盤』と言われる所以は、ひとえにプロデューサーのO-antによる音楽への深い造詣とその手腕があってこそなのだと思われる。

さて、『名盤』と評価される1stフルアルバムを出して後に放つ2ndフルアルバムは、それだけに世間の期待度も大きいものである。開口一番放つは「BUDDY」。作詞がHauptharmonieとなっていることにも注目に値する。

Hello! Projectになりたい T-paletteの仲間入りがしたい BABY METALももいろクローバーZPerfumeのように凛としたい <<

のように固有名詞を挙げて、自身の置かれた状況に対する皮肉めいた歌詞。 そうしたくても出来ない、資本力知名度、地下アイドルと言う現実。中でも初期メンバーの寺田珠乃の、

良い子にしててもいいことなかった ううん、良い子にするほど馬鹿を見たんだ <<

と言うセリフは、当初のコンセプトである「仲睦まじく行儀良く」から真っ向に対峙するものである。 恨み節乗せて歌うブルースにあわせ、メンバーたちが淀み濁った気持ちをセリフで吐く。 無垢を目指すも届かずに、汚れていく心を知る。

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「Kidnapper Blues〜人攫いの憂鬱〜」、「パラレルワープ」、「LAST CHANCE(幸福の妨げ)」は語らなくとも良いだろう。 「Alice in Abyss」、これはプロデューサーが語るように酷い歌詞ではあるが、とりわけ寺田の歌唱がすごい。高い音階でこぶしで効かせてストンと落とす、アイドルの歌とは到底思えないくらいに。 「yearing」は『bleich(青白盤)』のリード曲。 これまでを前半戦として良いだろう。

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「トゥー・スィート・トゥー・リブ」はアイドルではなく、ボーカルグループとしての高さを感じずにいられない。 サビではメロディに対して、コーラスは1オクターブ高い音をあわせてユニゾンさせ、曲の奥行きを増している。 とりわけ、新メンバー倉木の存在感が「トゥー・スィート・トゥー・リブ」では発揮されている。

メンバーの中で比較的声が低い倉木が、寺田ととともフェルセットをしながらサビに入る。 高揚感を保ったままコーラスワークに酔いしれつつも、最後の部分では倉木がほぼメロディを、心で叫ぶようにして歌っている。 2番目のサビ入りから最後までを、低い声だからこその特徴を生かした名曲である。

「きらり」はとても好きな曲。 「シャンパンゴールド・トワイライト・ラグゼ」はjazzテイストにアレンジした楽曲で、『GOLDENBAUM ep.』を再録されたものであり、若干のアレンジが加わっている。 「Old Gaffer’s Confession」はむしろパフォーマンスを見て楽しむ曲。 「almsgiving」もかなり変態的なコーラスワークは健在。

そして、「assuage his disappointment」。メロウでスロウテンポで、洋楽ロックのような楽曲でさえ、自分たちの曲として歌う。メインボーカルとなるのは、寺田だった。小川花という不動のセンターを失って、代わりにできるのは彼女しかいなかったからだ。彼女もいなかったら、この曲も今は歌われていないのかもしれないし、高い声のロングトーンを出して歌える歌唱力は、ボーカリストとしての片鱗を感じる一曲である。と同時に、こういう曲を歌うことができるグループであるということを、再認識させられる

「レディ・ファーイースト(極東淑女)」、こちらも再録。体が自然と動く、スカは本当に偉大なのだけれど、「assuage his disappointment」の後に持ってきたのは、ある意味勇気のある決断とともに、「音楽に遊ぶ」ということを体現している。 「ソプラノ・オーバードライブ」はライブ定番曲。 「春夏秋冬」はライブでもあまりやらないが、これまたいい曲。 そして「国王」。ボーカルがないこの曲は、恵比寿リキッドルームで披露された。

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1stフルアルバム『Hauptharmonie』は楽曲の良さに注目されがちであるが、2ndフルアルバム『Herz über Kopf』は、楽曲の良さだけにとどまらず、アイドルとして重要な要素となる歌の部分にも注目すべき、そして言い換えれば彼女たちの成長の軌跡を感じられる一枚となっている。正直なところ、アイドルは"こんな歌"を歌わないし、歌えない。寺田と同じく初期メンバーの相沢光梨が、

音楽に勝ちたいよね、アイドルとして*1 <<

bounceのインタビュー内で述べたが、一方でリスナーからしたらその言葉に誤りがあるとすら錯覚する。 ダンスと歌唱力はアイドルにとって重要な要素であるが、歌唱力は2年間の積み上げによって、その実績を『Herz über Kopf』で証明されている。

いい楽曲が用意されているアイドルはたくさんいる。 しかし、いい楽曲を超える歌唱力を持ったアイドルはいるだろうか。

歌唱力という武器を手に入れた彼女たちが、白いロックへと回帰するのか、それとも別の色に染まっていくのか。 5th ep.の発売も予定しているとのことで、今後にも期待を持てる一枚となっている。

*1:タワーレコードbounce』(393号)、51頁。